炉開き
煮え(鳴り金)
11月はこれまで使用していた風炉を片付け、炉を開き、初夏に摘んで寝かせてあった新茶を初めて使う口切りを行うため、茶人の正月と言われています。茶釜の湯が沸くときに鳴るシュンシュンという音(釜鳴り)は、たいへん心が落ち着くものですが、釜鳴りの音をより心地よいものにするために、釜の底に煮え(鳴り金)といわれる仕掛けがあることをお茶の先生から伺い、実際に釜の底を見せていただきました。薄い鉄片を景色良く漆で接着したもののようです。煮えが付いているから釜鳴りがするというものではなく、音を増幅するために付けたものらしく、京都の釜には付いているが、その他の地域で作られる釜には付いていないようです。
茶の世界では、湯の沸き加減を湯相というそうで、千利休は湯相を「蚯音(きゅうおん)」「蟹眼(かいがん)」「連珠(れんじゅ)」「魚目(ぎょもく)」「松風(しょうふう)」の五つに分け、シュンシュンと釜鳴りする状態の「松風」(松籟)をよしとしたようです。
湯の沸く音にじっくりと耳を傾けるという行いは、茶の世界を除いて、我々の普段の生活ではほとんど失われてしまった気がします。日本人にしか感じられない価値観を日本人自身が失ってしまうことは大きな損失です。現代に生きる日本人の我々も、利休に負けず、湯の沸く音に風情を感じるための仕掛けや空間を考えていかなければいけないと思います。